誰かの人生の材料になる喜び・そのためのスキル
先日、友人の論文執筆に協力させていただく機会がありました。
中京大学・経営学部の永石信教授による論文で、彼を中心に3名でご執筆された『メタファーの力:メタファーはオンラインのOD/HRDコミュニティで生成的学習をどのように呼び起こすのか?』です。
※組織開発分野のHarvard Business Review的な位置づけにある『Organization Development Review』誌2024年夏号に掲載されています。こちらのリンクからも読むことができます
https://www.researchgate.net/publication/382063210_The_Power_of_Metaphors_How_Do_Metaphors_Evoke_Generative_Learning_in_Online_ODHRD_Communities_in_Organization_Development_Review_562_pp47-55
永石さん(私はいつもは「まことさん」と呼んでいます)のプロフィールはコチラ。
組織開発、リーダーシップ開発、国際ビジネスなどがご専門です。
https://manage.chukyo-u.ac.jp/graduate_school/teacher_list/professor/nagaishi_g.html
ちなみに論文は英語で書かれていますが、翻訳アプリを使えばかなりの精度で読むことができます。
(私はそれで読みました)
さて、「論文に協力させていただいた」とありますが、この論文に出てくるゲストスピーカー(GSW)が私です。
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どんなプロセスが論文のもとになっているか、簡単にまとめると
1)永石さんのYoutubeチャンネルに「働くってなんだろう?」というテーマでゲストスピーカーとして私が登壇した
2)動画内で私が話した内容を永石さんはじめ本論文の執筆者3名が分析すると、多くのメタファー(比喩表現)が使われていることがわかった
3)すべてのメタファーを洗い出し、その中から40個までに厳選。それを6つのメタファーカテゴリーに分類
4)カテゴリー分けしたメタファーを一覧にしたものと、私が話す動画をセットにして被験者に渡し、動画を観たあとで「とくに生成的に感じたメタファーを3-4個ピックアップしてほしい」と依頼
5)ピックアップした内容をもとに被験者と論文著者が対話
6)5の様子を収録した動画を私が観て、どう思ったか・感じたかを論文著者と対話
というものでした。
ちなみに、今回の論文でのキーワードは「生成的」ということなのですけれどね。
アメリカの社会心理学者ケネス・J・ガーゲン氏による言葉で、以下のように説明されます。
生成性(generativity)とは
新しい景色が広がったような気持ちになったり、新しい気づきや学びが得られたり、固定観念が揺さぶられたりすることで、これから行動を起こすためのエネルギーが得られたような感覚
新しいアイデアや行動を生み出して社会に貢献したり、自己を再構築したりする際に重要な感覚体験であり、他者との関わりの中で発展するもの、とされています。
とってもひらたーく言ってしまうと、この論文は、
オンラインを使った学習コンテンツにおいて、新しい気づきや学びを得、アクションを起こすことに繋げるために(=生成性を発動させるのに)機能するもののひとつとして、メタファー(比喩表現)に着目して考察した
というわけです。
オンラインの学習ツール、ますます増えていますからね。
非常に興味深い、意味ある論文だと思います。
ちなみに、素材となったYoutube動画はコチラ。前編&後編でございます。
よろしければぜひ!
◎前編
https://youtu.be/OIoNv2-i8Yw?si=nUM4filPghw5liKq
◎後編
https://youtu.be/-NfOoovf4JE?si=mdxo-DI4hmODlcgu
……と、論文に関することを前提としてお伝えしたうえで。
ココからは、私がこの論文執筆への協力を通じて体験したことや考えたことを、今日はメインディッシュにお話したいのです。
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研究のプロセスの中で、被験者4名の皆さまがお話していらっしゃる動画(おひとり約20-30分)を拝見したんですね。
(上記プロセス6)
非常に興味深いものでした。
すべての方々が、私の言葉(今回ならとくに「メタファー」)をキッカケに、思い起こされたことや感じたこと、体験したことを語っていらっしゃって、それが「生成性」のある体験であった、ということになるわけですけれども。
「(メタファーに)励まされた」
「勇気づけられた」
「自分のこれまでの活動が肯定されたような気持ちになった」
「自分がやってきたことが何かよくわからなかったけれど、こういう言い方で表現できるんだ!(すごくしっくりくる。自分もそういうことをしていたのだ!)という意味を見つけることができた」
などなど。
私の話を材料にして、ご自身のこれまでの人生(キャリア)に想いを馳せたり、自己の再構築(意味づけ、定義づけ含め)を行ったり、心理的資本(勇気や励まし、モチベーション)を得たり。
それぞれが、ご自身の人生に意味のある観かたをしてくださった様子が伝わってきました。
ただ、中でも一番印象的だったのは。
おひとりの方が、20-30分の間。私のことや、私の言った言葉を何ひとつ語らず、ずーーーーっと、ご自分の話をされていたんです。
こんな経験を思い出して……
こんな風に考えていて……
こんなことをしたいと思っていて……etc.
とにかくずっと、ご自分語りだったんです。
まるで、私の動画を観たことを忘れてしまったのかしら?と思うくらいに。
そして、それが、私にとっては、最高に、良かった。
キャリアカウンセラーになったばかりの頃。
カウンセラーの先輩から聞かされた、こんな言葉が私の中には奥深く刻まれました。
「カウンセラーとは、忘れられてなんぼ。相談者が、相談したということを忘れてしまい『自分で考えて、自分で答えを見つけた』と思ってくれることが、カウンセラーの本望だ」
駆け出しの私は、この言葉を徹底して体現しようと、必死でした。
「清乃さんのおかげで……」とお相手に感謝されようものなら、「カウンセラーとしてまだまだだ、私は!」とストイックに自分を叱咤したものです。
ちなみに今は、様々な経験を経て、感謝されることも嬉しく受け取るようになりましたし、先輩の言葉の奥にある大切なものも汲み取ることができるようになってきた気がしています。
上記のずーっとご自分語りをしていらっしゃった方の動画を観て心底、本望だ!と思いました。
私の動画をキッカケに、この方がこんなに豊かな記憶の再構築ができ、ご自分の言葉で思考を組み立てて語り、未来に向けたエネルギーが拡張している。
私の言葉を材料に、聞き手は追体験をするのですが、その追体験の世界が広く深く、創造性に溢れている。
そのお姿をたっぷりみせていただけたからです。
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このプロセスを通して、もうひとつ、思い出したことがあります。
私は研修講師に加えて執筆活動もしていますので、「言葉」を磨くことは自身のスキル開発として重要視していることのひとつです。(なかなか磨かれませんが……)
とくに、動画や文章など、固定的でいつでもアクセスできるもの(対して研修はライブな消えもの、とします)はずっと残りますし、繰り返し読まれる(観られる)ものでもあるので、できる限り吟味して、自分の意図からズレない表現をしたいと心を砕いています。
が、同時に。
私の手を離れたら、その文章や動画は、「読む(観る)人のものになる」ということを忘れていません。
私の手を離れたら最後、そのものは、誤読の可能性をはらむ。
つまり、自分の意図とは違う解釈をされる可能性をはらんでいる、ということです。
実際、2021年に出版した拙著(共著)にいただいた感想の中には、私の意図とは違う解釈のものもありました。けれど、それがとても嬉しかったのです。
「エクリチュール(書き言葉)は、相手(読者)がいないと、作動を開始しないものだ。……書き手が『完全だ』と思って書き終えて、そこで閉じているものではない。そこから、動いていく。……エクリチュールは、動いていく。そして作者でさえ、書き言葉の動きを固定することはできない」
「新しい読者が増えるほどに、書き言葉には新しい意味が付け加わっていく。……新しい読み方、解釈、ときには創造的な誤読がなされる。……書き言葉とは、書き手の所有物ではないのだ。……書き言葉とは、読者のものだ」
(引用元『三行で撃つ』cccメディアハウス)
私が心の師匠と思っている方のひとり、猟師で作家の近藤康太郎氏の言葉です。
磨かれた、よい文章(や言葉)とは、創造的な誤読が生まれるものである。
これは、今回の永石さんの論文、メタファーが生成性を促進する、という内容とも繋がる話のように思います。
もしかすると、メッセージを発信するリーダーに必要なスキルは、洗練されたメタファーをつくる力、かもしれませんね。
今回の論文協力を通じて、私自身、生成性を体験できました。
これからも、「自分の」言葉を磨き続けること。
そしてそれを、この世に捧げること。
これが私の仕事のひとつ。
誰かの人生をよりよくするための材料になれたら、なんて喜ばしいことだろう。
動画の中で話した、「海に放ったメッセージボトル」とは、まさにこのことなのです。
Holistic career®2024